2016年5月1日日曜日

刑の一部執行猶予制度

「刑の一部執行猶予制度」が6月から開始します。渡部です。



もう皆さんご存知の刑の一部執行猶予制度が始まりますので,よろしくお願いします。

すいません,ぼくは最近までこれが始まるの知りませんでした。

まずい,これは弁護士として非常にまずい。しかもいつも後輩弁護士に偉そうな口を叩いているのに立場上まずい。

しめた,今はゴールデンウィークだ。今のうちに勉強しておいて,ゴールデンウィーク明けに「知ってましたけど何か」みたいに素知らぬ顔で毎日を過ごそう。そう決めました。


【刑の一部執行猶予制度とは?】

刑の一部執行猶予とは,懲役又は禁固の判決を言い渡す場合において,その刑の一部の執行を一定期間猶予する制度です。

長くて言いにくいので,以下,「一部猶予」と言います。

刑法が一部改正され,また,薬物使用等の罪を犯した者に他する刑の一部の執行猶予に関する法律というものが作られました。

6月からスタートです。


【なんかそれ刑が軽くなって良さそう】

そう簡単にいかないのが一部猶予の難しいところです。

まず,「一部猶予」という言葉を聞いて,誰もが「実刑>一部猶予>猶予」という量刑のイメージを持ちますが,まずこれは間違いです。

なんか実刑と執行猶予の間の,なんか中間的に落とし所を求める日本人特有の性質が反映された制度のように聞こえますが,そういうわけではありません。

結論から言うと,一部猶予は実刑の一種と言われています。

イメージすると,

・実刑(この中に一部猶予が存在)
・執行猶予

というイメージです。そうすると,実刑は一部猶予の包括的概念なので,わかりやすく「全部実刑」と言い換えます。また,今まで執行猶予と呼んでいたものも紛らわしいので「全部猶予」と言い換えます。

・全部実刑(この中に一部猶予が存在)
・全部猶予

こうなります。

なぜこうも「実刑の一部ですよ」と強調しているかというと,執行猶予(全部猶予)って,裁判の後,刑務所行かなくていいじゃないですか。

ただ,一部猶予の場合,実刑の一種なので,判決後,猶予なのに刑務所に行きます(ここすごい大事)

例えば全部猶予の場合,「被告人を懲役1年6月に処する。この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する」という主文がスタンダードです。

この主文を噛み砕いて日本語に変換すると,「貴様は1年6か月刑務所に入ってもらう。ただ,本来そうしてもらうのが筋だが,更生のチャンスをやろう。3年間,何も犯罪やんなければ,刑務所の件はなしにしてやる。そうだ。明日から刑務所,というわけではないということだ。元気でな。」となります。

他方,一部猶予の場合,「懲役2年6月,うち6月についてその刑の執行を2年間猶予する」という主文になるのではないかと言われています。

この主文を日常会話として使われている日本語に変換すると,「貴様は2年6か月刑務所に入ってもらう。確定したらソッコー入ってもらう。即座に,だ。ただ,貴様には社会内でうまく更生してほしい。だから,2年間服役した後の最後の6か月,刑務所の外に出してやるから,上手く社会に適合できるように,保護観察を使ったりして,うまく社会に戻れるよう見ておいてやろう。その6か月を見事真人間として過ごせたのであるなら,最後の6か月は刑務所で服役しなくてもよくしてやろう。犯罪したらダメだからな。元気でな。」ということになります。

非常にわかりやすい表現では無いということを自負しています(日本語難しいね。)。


【なんでこんな制度が始まるの?】

難しく言えば,施設内処遇と社会内処遇の有機的連携を構築して,再犯を防止することを目的としています。

どういうことかというと,今までの実刑(全部実刑)の場合,刑務所に入って,刑期が終了したら(仮釈放受けたら),刑務所は「アバヨ!」と言って,経済的・社会的意味において素っ裸で社会に放り出されます。

例えば薬物事犯者の場合,自身の意志だけでは薬物を断つことは難しく(薬物,ダメ,絶対),職無し・金無し・人脈無しの状態で「アバヨ!」されると,再度挫折して同じことすることがあります(いわゆるスリップと呼ばれる現象。薬物の再使用。)。スリップすると,周囲の人間も離れていき,また薬物のドツボにはまる。これが非常に多いと言われています。

もちろん,刑務所の中で薬物をすることは,ハリウッド映画の刑務所でも無い限り不可能で,刑務所の中の職員さんが,親身になって薬,ダメ,絶対を刷り込ませます(交通刑務所の市原刑務所以外のすべての刑務所で,薬物断絶プログラムが実施されています。)。これが施設内処遇です。

ところが今まではここからいきなり「アバヨ!」するために,社会内での更生処遇が不十分な場合があります(社会内処遇)。

ということで,いきなり社会にアバヨ!するのではなく,施設内で職員さんに受けていたような更生処遇を社会でも受けて,その人が完全に犯罪と手を切るための連携を,刑務所と社会がすることにした(有機的連携),これが一部猶予の趣旨です。


【じゃあとりあえず一部猶予という戦い方の選択肢が増えたね!やったね!】

そういうことではございません。

先程お話ししたように,一部猶予は全部実刑の一種と言われており,「従前全部猶予であった者を一部猶予にする」中間刑ではなくて,「従前全部実刑であった者のうち,当別予防の観点から必要かつ相当な場合に適用する制度」です。

従って,誰でも一部実刑になるとは限らず,法律で厳格に要件が定められています(改正刑法27条の2,薬物3条。)再度の執行猶予とはまた異なる要件が定められているので,同業者の方は注意してください。

検討順序としては,

①本件事案が実刑事案であるか判断
②実刑事案である場合,宣告刑が3年以下(っぽい)か判断
③犯情の軽重,再犯防止の必要性・相当性から一部猶予が相当か

という順序になります。

何を言ってるかわかりづらくなったでしょうし,私も何を言っているかわからなくなってきたので,ケースごとに考えてみましょう。

無罪主張している場合(要は全面否認している場合)

一部猶予が出る可能性は極めて(ほぼ)あり得ません。
無罪主張(否認)をしているにもかかわらず実刑判決が出たということは,裁判所は「犯罪したのに否認した」と見ますので,更生意志や社会内処遇のプログラムを受ける意志が立証できる(立証する場面が出てくる)とは思えないので(そんな事案あるのかしら。),「先生,否認するけど万が一の場合は一部猶予をお願いします。」というのは無茶振りに近いと思います。

また,被告人が無罪主張をしているにもかかわらず,弁護人が弁論で一部猶予を主張することは,被告人が無罪主張しているのに弁護人が実刑(一部猶予は実刑の一種)を認めていることになるので,同業者の方はご注意ください。


全部猶予が可能性としてある場合

まだ施行されていないのでイメージしづらいですが,全部猶予が可能性としてある場合には,弁護人は全部猶予を主張すべきでしょう。一部猶予は実刑ですからね。
ただ,実務の世界には,「理論上全部猶予があり得るんだけど,現実問題全部猶予が難しい事案」というグレーの事案があります。
この場合には,被告人と打ち合わせを重ね,方針を決定しなければならないと思います。
ただ,これはあくまでぼくの感覚ですが,この場合に一部猶予の弁論はしづらいと思いますが,一部猶予の立証はしておくと思います(そして裁判所にチラチラ視線を送ります。)


一部猶予の後の話

これはぼくも初めて知ったんですけど,全部猶予の「猶予」と一部猶予の「猶予」は少し性質が異なります。
具体的には,猶予期間中の監督状況が大きく異なるみたいです。
全部猶予(今までの執行猶予)は,まぁ説明不要で,社会で頑張ってね的なので終わることが比較的多いのですが,一部猶予の猶予は上記のとおり施設内処遇と社会内処遇の有機的連携を実現させるための猶予なので,何らかの監督機関による監督を想定しておいたほうがいいです。
刑法上の一部猶予は,保護観察が任意的という建前ではありますが,ほぼ間違いなく保護観察はつくだろうと各地の検討会から報告がされており,薬物の一部猶予は保護観察が必要的です。しかも,薬物の場合は,2週間から1か月に1回程度,「簡易薬物提出検査」が義務付けられており(特別遵守事項),ここで見事に陽性結果が出た場合,



刑務所「おかえり。」



となります。当たり前です。





(今日のまとめ)

・一部猶予とは実刑である。
・一部猶予を受けた場合,更生プログラムを受けることとなると思うが,その内容を予め知っておいた上で被告人と協議する必要がある。
・このブログではわかりにくいので,日弁連のEラーニングですぐ勉強するべき。



・ぼくは今日勉強した。



にほんブログ村 士業ブログ 弁護士へ
にほんブログ村